佐賀地方裁判所 昭和45年(ワ)442号 判決 1971年8月04日
主文
一、被告有限会社中島商事は原告に対し、別紙物件目録記載の建物のうち、一階南側の部分十五坪(四九・五八平方米)を明渡すべし。
二、原告の被告八谷守に対する請求を棄却する。
三、訴訟費用中、原告と被告有限会社中島商事との間に生じたものは、同被告の負担とし、原告と被告八谷守との間に生じたものは、原告の負担とする。
四、この判決は原告の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者双方の求める裁判
一、原告
(一) 被告有限会社中島商事は原告に対し、別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という)のうち、一階南側の部分十五坪(四九・五八平方米)を明渡せ。
(二) 被告八谷守は原告に対し、本件建物のうち、一階北側の部分約一二〇・五二平方米及び三階一七〇・三〇平方米を明渡せ。
(三) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(四) 仮執行宣言
二、被告ら
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 原告の請求原因
一、原告は、債権者株式会社佐賀相互銀行、債務者兼物件所有者三谷清秀間の佐賀地方裁判所昭和四十四年(ケ)第四十四号不動産任意競売事件の競売により、昭和四十五年十月十六日本件建物及びその敷地たる土地を、競買代金二千五百二十万円にて競落し、同年十一月二十一日競落代金の支払を完了し、その所有権を取得した(同年十一月二十六日登記経由)
二、しかるところ、被告有限会社中島商事は、本件建物のうち一階南側の部分十五坪(四九・五八平方米)を占有中である。また、被告八谷守は、本件建物のうち一階北側の部分約一二〇・五二平方米及び三階一七〇・三〇平方米を占有中である。
三、よつて原告は、本件建物の所有権に基き、被告らに対しそれぞれ右占有部分の明渡を求める。
第三 被告有限会社中島商事の主張
一、請求原因に対する答弁
請求原因第一、二項の各事実は認める。
二、抗弁
(一) 被告は、昭和四十三年十一月二十二日、本件建物の旧所有者三谷清秀から本件建物部分を賃借(期間昭和四十三年十一月二十五日より二年)するについて、同人に対し敷金百五万円(四十三年十一月二十二日金五十万円、同年十二月十六日金五十五万円)を差入れた。
しかるところ、原告は昭和四十五年十一月二十一日本件建物の所有者となることにより、賃貸人たる地位を承継したものであるが、右賃貸借は借主たる被告において賃料の不払なく同年同月二十四日の経過をもつて終了したので、原告は訴外三谷より承継した敷金返還義務を、被告は目的物の返還義務を、それぞれ有するに至つた。しかして右両債務は同時履行の関係に立つので、被告は原告から敷金百五万円の返還を受けるのと引換えにでなくては、明渡しに応ずる義務はない。
(二) 前記賃貸借契約当時、賃借部分はガレージでコンクリートの土間であつたのを、被告が賃貸人三谷の承諾の下に、これを改造し、内部を新築して、「茶々殿」という屋号で割烹店を営み、現在に至つているが、被告は右内部新築及び設備に金二百三十四万六千七百円を出費しており、その明細は別表のとおりである。そこで被告はこれについて、原告に対し造作買取請求権を行使し、原告より造作代金の支払あるまで本件賃借部分につき留置権を行使するものである。
(三) なお仮に、別表のうち、1及び2の分が造作にあたらないとするならば、この分については原告に対し同金額の有益費償還請求権を行使し、この支払あるまで本件賃借部分につき留置権を行使するものである。
第四 被告八谷守の主張
一、請求原因に対する答弁
請求原因第一、二項の各事実は認める。
二、抗弁
被告は昭和四十四年九月一日頃、本件建物部分に関し、当時の所有者三谷清秀との間に左記の賃貸借契約を締結している。
賃貸借期間 昭和四十四年九月一日より同四十六年八月末日まで
賃料 一カ月 十六万八千円
賃借の目的 店舗兼住居用
敷金 八百万円
占有の引渡 賃貸借契約成立と同時
右により被告は本件建物部分を占有して現在に至つたものであり、被告の右賃借権は原告に対抗しうるものである。
第五 被告らの抗弁に対する原告の反論
一、被告有限会社中島商事に対する反論
(一) 本件建物については、債権者株式会社佐賀相互銀行と所有者三谷清秀間の根抵当権設定契約に基き、昭和四十三年二月五日根抵当権設定登記がなされている。従つて、被告有限会社中島商事の主張する賃貸借契約が右登記後のものであることは明らかである。
このような場合、すなわち抵当権設定登記後になされた賃貸借は、期間の定めがある場合でも、競売手続の終了と共に賃貸借契約の効力を失い、競落人は当然建物の明渡しを求めうるものと解すべきである。
(二) しかして、先順位抵当権者の申立による競売により競落人となり所有権を取得した者が、後順位賃借権者が旧賃貸人に差入れてあつた敷金の返還義務を承継する法律上の根拠はなく、かつ造作物件が仮にあつたとしても、買取義務はなく、賃借人は当然原状に回復して明渡すべき義務を有するものである。
殊に訴外三谷清秀と右被告間の賃貸借についての競売期日の公告中には、かかる敷金の有無及び買取請求権の対象となるべき工作物の内容についての記載はなされていなかつたものである点も考慮するときは、被告は敷金返還請求権及び買取請求権を競落人たる原告に対抗しえないものである。
(三) 右被告の主張するところによれば、被告が買取りを求める新築とは、賃借建物の部分に割烹店として使用するにふさわしい屋内装置をしたものと認められ、かつ本件建物に附加されたもの又は増築と見るべきではなく、従つて買取請求権の対象となる改造造作というべきではない。すなわち原告は本件建物の明渡しによつて現在利益を享受しえないことは明らかであり、同被告はむしろこれらの一切の設備を収去して原告に明渡すべき義務を有するものである。
二、被告八谷守に対する反論
(一) 被告八谷守の主張する賃貸借契約も、競売申立登記(昭和四十四年十月十一日)前ではあるが、競売申立原因たる根抵当権設定登記後のものであることは明らかである。従つて、前項において被告有限会社中島商事の抗弁に対し反論したと同様、同被告の抗弁も法律上理由がない。
(二) 殊に同被告の賃貸借については、執行裁判所の調査嘱託による執行官の賃貸借関係事項取調報告書に記載されていない(従つて競売期日の公告中にも記載がない)こと、賃借範囲(面積)に比し、賃料及び敷金の額が極めて不均衡であること等から見て、旧所有者三谷清秀と同被告間の賃貸借契約は、抵当権に基く競売申立のなされた場合を予定し、その競落による引渡執行を妨げる目的で相通謀してなされた虚偽仮装の契約であることは明らかであつて、同被告は原告に対し賃借権の存在を主張しえない不法占拠者である。
第六 立証(省略)
別紙
物件目録
鳥栖市本鳥栖町字下鳥栖五参七番地壱九
家屋番号五参七番壱九
一、鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根四階建店舗兼居宅
床面積 壱階 壱七〇・参〇平方米
弐階 壱七〇・参〇平方米
参階 壱七〇・参〇平方米
四階 四九・弐八平方米
別表
<省略>